2006年4月 4日 (火)

しばらくお休みします。

すっかり更新が滞ってしまいました。
バタバタ続きでじっくり記事を書く時間がとれず、 
しばらくお休みさせていただいております。
いつもご覧頂いている方、申し訳ございません。
再開しましたら、またよろしくお願いいたします。

※娘はその後すっかり良くなりました。
  お見舞いのメッセージを下さった方々にお礼を申し上げます。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2006年3月 1日 (水)

飼い主さんの心、母の心

3歳になる娘が入院した。
1週間熱が上がったり下がったりで、保育園にも行けない。
咳も出るし、食事も摂らなくなってしまった。
いつもなら1日か2日で元気になる、丈夫だけが取り柄の娘が、
一向に元気にならない。
毎日ぐずって泣いてばかり。
かかりつけの病院の薬の効果も芳しくないので、
近くの総合病院を受診した。

様々な検査の結果、マイコプラズマという病原体が原因の肺炎という診断が下った。

入院した方が早く良くなるとの事だったので、その日のうちに入院させた。

先生、治りますか。
食欲がないようなのですが。
熱がまた上がってしまいました。
点滴の中身が変わるんですか。

私は獣医師なので、薬の種類や効果、治療方針はある程度理解出来る。
それでも、不安だ。

まだ娘は闘病中だ。
しかし、この経験は私の獣医師としての仕事に充分生かさなければならない。
娘の病を心配する親の心、飼っている動物の病を心配する飼い主さんの心、
何が違う事があろうか。

早く娘が回復し、仕事に完全に復帰してひとりでも多くの飼い主さんの心配事に
耳を傾けられる日がくるよう、切に願っている。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年2月15日 (水)

お気遣いなく

海辺の街の動物病院の患者さんは、奥ゆかしい方が多い。
例えば・・・

可愛らしい洋服を着せてもらった子犬を抱いたご婦人。
「先生。うちの子、最近フケが多くて。病気じゃないか心配で連れてきました。」
では診てみましょう、と洋服を脱がせてみると、大してひどくはない。
「ん〜、この程度のフケなら問題ないように思いますが・・・。」
「でも、本当にすごかったんですよ。」
あら?なんだかこの子、いい香りがする・・。
「奥さん、この子最近シャンプーしました?」
「ええ、さっき洗いました。」
「えっ、さっき?」
「だって、あんなにフケだらけで連れてきたら、ご迷惑かと思って。洗いました。」
「・・・・」

同じく犬の飼い主さん。
「お耳が臭いし垢が多いようなんです。病気かしら。」
そこで診てみると、全然垢がない。匂いもさほどひどくはない。
「ええ、ここにお伺いする前にトリマーさんに掃除をお願いしてきましたから。あまりにひどくて先生にお見せするの恥ずかしかったので。」
「・・・」


おしっこの色が気になるということで来院した、これまた犬の飼い主さん。
待合室で待っている間にワンちゃんがおしっこをしてしまった。
「あらやだ、ごめんなさい」
と言うが早いか、バッグからティッシュを取り出し、素早く拭き取ってしまった。
残念!そのおしっこで尿検査がしたかった!
診察室でおしっこを採ろうとしたが、案の定膀胱は空っぽで、検査ができなかった。

みなさん“汚いもの”を私たち獣医師の目に触れさせないように気を遣って下さる。
けれども、お気遣いなく!
その“汚いもの”こそが、獣医師にとって素晴らしい判断材料であり、診断を下す際の決定的証拠なのだから。
ぜひ“汚いもの”を取り除かずに、飼い主さんが不安に感じた状況(フケ、耳垢、尿の色など)を私たちの目の前で再現していただきたい。

皆さんにとっては“汚いもの”でも、獣医師にとっては“宝物”かもしれないので!

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2006年1月27日 (金)

デコイチ君、再び 〜後編〜

手術当日の朝。
デコイチ君はお母さんと男の子に連れられてやってきた。
麻酔をかけるので、朝ご飯は抜きだ。
空腹と、大嫌いな病院に連れてこられた事で非常に不機嫌そうな表情だ。
キャリーバッグの中から低いうなり声が聞こえてくる。
ああ、やっぱり・・・・。
それでもなんとか身体検査と手術の説明を終え、そのままお預かりする事になった。


午前の外来が終わり、手術の時間になった。
相変わらず怒っているデコイチ君にいつもの袋に入ってもらい、看護婦さんに押さえてもらって、
お尻に麻酔の注射を打った。


カ〜ッ!(威嚇)


デコイチ君は案の定、激怒した。
「ごめんね!我慢して!」
ひとまずケージに入ってもらい、麻酔が効いてくるのを待つ事になった。
通常は5分もすれば効いてくるはず。


「無事に麻酔打てたし、もう大丈夫ですよね。」
「うとうとしたら、手術室に移しましょう。」
そんな話をしながら、看護婦さんとデコイチ君が眠るのを待った。


5分経った。
デコイチ君は・・・・まだ怒っている。
足元はふらついて、麻酔が効いてきているようなのに、まだ目を見開いて怒っている。

「まだ不十分だね。もう少し待ちましょう。」


しかし、もうすぐ10分経とうとするのに、まだデコイチ君は怒っている。
体はすっかりグニャグニャになっているのに、まだ怒っているのだ。


絶対寝るもんか。
こいつらの前でなんか、寝るもんか!


とまあ、こんな感じなのだろうか。
あっぱれデコイチ君。
私は、ぐんにゃりとへんてこな格好で横たわりながらなおも怒っているデコイチ君を見ながら、思わず感心してしまった。


結局その後麻酔が効いてきて、さすがのデコイチ君も眠ってしまった。
そして無事、去勢手術が終わったのだった。


痛み止めも効いているし、寝ている台もポカポカと温かいので、デコイチ君はまだスヤスヤと眠っている。
目が覚めるのはもう少し後だろう。
寝顔は穏やかで可愛らしい。
頑張ったね、とデコイチ君をなでた。


・・・と、デコイチ君の目がカッ!と開いた。
そして、私を見据えて 「シャアッ!」


お見事!
驚愕の覚めっぷりである。
しかし、誉めている場合ではないので、
怒りが頂点に達する前にすぐさま入院ケージに戻ってもらった。


その後デコイチ君は、夕方のお迎えまでの間、軽食を平らげ、エリザベスカラーを自力で取っ払い、
ここから出せとケージの隙間から手や鼻を出したりして過ごした。

夕方ご家族が迎えにくると、にゃおにゃおと甘えた声(初めて聞いた!)を出し、嬉しそうに帰って行った。


傷口は抜糸の必要がないので、特に問題がなければ再診の必要はない。
特にご家族からの連絡もないところをみると、元気にしているのだろう。
爪も、麻酔が効いて寝ている間にしっかりと切っておいた。
しばらくデコイチ君は病院に来る事はないだろう。


次の爪切りのときには仲良くなれるといいな、と淡い期待を抱きつつデコイチ君のカルテを片付けた。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2006年1月16日 (月)

デコイチ君、再び 〜前編〜

いつも爪を切りにくるクロネコのデコイチ君が、ついにお年頃になった。

ある日、病院にデコイチ君のご家族から電話がかかってきた。
もう一人の先生が電話を取った。
「はい、どうなさいました?」

ご家族によれば、なんだかおかしな声で、ガオガオと鳴いているとの事だ。
それにそわそわしていて、どうやら発情期がやってきたらしい。

「それで、去勢手術をお願いしたいのですが。」

そんな流れで、デコイチ君の去勢手術の予約が入った。
電話を受けた先生が、「デコイチ君の手術、予約取っておきましたから。」
と、にやりと笑った。

日付を見ると、その先生はお休みで、私が担当の日だった。
・・・むむむ。


最近私はデコイチ君に会っていない。
一度は大人しく爪を切らせるようになったのだったが、最近はまた暴れん坊に逆戻りしているのだそうだ。
「すごいですよ、この前も大乱闘でした。」

・・・むむむ。
嵐の予感がする。

こんどの金曜日にデコイチ君はやってくる。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年12月14日 (水)

百分の一の話

もうその日の診療時間も終わろうとしていた、夕方。
二人の女性がチワワを抱いて病院に入ってきた。
「100円玉を飲んでしまいました!」
「うんちに出るかと待っていたのですが、出てこなくて!」


話を聞くと、そのチワワは飼い主さんのお財布をおもちゃにして遊んでいたのだそうだ。
くわえて振り回したり、齧ったり・・・。
そのうち財布の口が開いて、中の硬貨が飛び散ったらしい。
それをみてチワワは硬貨を追いかけ・・・そしてパクリ。
飼い主さんが、あっ!と思ったときにはもうゴクリと飲み込んでしまっていた。


「すぐにレントゲンで確認しましょう。」


当のチワワは、ぐったりする事もなく、尻尾を振り元気一杯だ。
レントゲンを撮るのに苦労するぐらい、はしゃいでいる。
飼い主さんの話では、飲み込んだ後数回吐き気があったらしいが、今は全く大丈夫そうだ。


写真が出来上がった。
あった、あった。
胃の中に、沢山のご飯に混じって、丸い金属が写っている。
「ご飯はしっかり食べたのね・・・。」
私は相変わらず尻尾を振って無邪気にはしゃいでいるチワワに思わず苦笑いをした。


「幸い、胃の中にご飯が沢山入っていますから、もしかしたら催吐剤を使って吐かせる事ができるかもしれません。」
私は写真を見せながら飼い主さんに提案した。
吐かせる処置には多少のリスクが伴うが、それでもお腹を切る前に試す価値はあると判断した。
これだけ沢山のご飯が一緒なら、硬貨もうまく包まれて、食道を傷つけることなく出て来られるだろう。


「お願いします。」
飼い主さんも同意してくれた。


チワワに催吐剤を飲ませ、しばらく待った。
すると・・・・。
出てきた出てきた。
ご飯と一緒に硬貨が出てきた。

「・・・あれ?」


硬貨を見ると、一円玉だ。
「百円玉、じゃなかったっけ?」


飼い主さんもそれをみて思わず「いやだ〜。恥ずかしい!」と苦笑い。
無事に吐き出させる事ができた安堵感も手伝って、私たちは一円玉を眺めて大笑いしてしまった。


そう、飼い主さんの心配は百倍だったのだけれど、終わってみれば百分の一。
一時は緊張が走った病院内に、皆の笑い声が響いたのだった。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2005年11月30日 (水)

ペコペコももちゃん

真っ黒いトイプードルのももちゃんが、去勢手術を受けにやってきた。
まだ生後半年ちょっとだが、風邪をひいたり画鋲を飲み込んだり(!)と、これまでに何回も通院している常連さんだ。
大変なやんちゃ坊主であり、お母さん大好き!の超甘えん坊である。
そんなももちゃんもお年頃となり、いよいよ去勢手術を受けることになった。


男の子の手術は、当日退院ができる。
夕方までの辛抱だからね、と預かった。


そして手術は無事終わり、あとは麻酔から醒めるのを待つのみとなった。
「ももちゃん、終わったからね、起きようね~」
しかしももちゃんは、意識はもどっているものの、横になったまま起き上がろうとしない。
いつもならケージに閉じ込められるのは大嫌い!とキャンキャン吠え立てて抗議するももちゃんが、じっと横たわっているなんて。


普通の子ならすっかり目が覚めて退院できる時間帯になっても、まだももちゃんはぼんやりしている。
麻酔が効きすぎたのかな、痛いのかな・・・と、さすがに心配になってきた。
いやそんなはずはない、麻酔は順調だったし、鎮痛剤もきちんと使っているし・・・。


・・・・ひょっとして?
私はあるものを取りに倉庫へ向かった。
取ってきたのは、手術を頑張った子のための特別食。
高栄養で大変おいしい缶詰だ。

「ももちゃん、ご飯食べようか。」
鼻先でパッカンと缶詰を開けてみた。

・・・すると!
がばっとももちゃんが立ち上がった。
あんなにぐったりしていたのに、しっかりと肢を踏ん張って、シャキッと立ち上がった。

そして、尻尾ブンブン、鼻はクンクン、さらにはピョンピョン飛び跳ねながら、前足で扉をガリガリ。
それはそれはものすごい醒めっぷりだ。
絶食明けだから最初は少しだけだよ、とお皿を差し出そうとしたら、お皿を下に置く前にご飯は消えてなくなってしまった。


そう、ももちゃんはお腹がすいていたのだ。
それも、とびっきり。
麻酔が効きすぎたわけでもなく、傷が痛むのでもなく、とにかく空腹だったのだ!


退院のときお母さんに報告すると、「いやあねえ、本当に~!」と苦笑いをしていた。
聞くと、ももちゃんは大変な食いしん坊で、うっかり目を離すと同居の先輩プードルのご飯まで平らげてしまうのだそうだ。
そんなももちゃんが、手術のために朝ごはんを我慢させられたのだ。
確かに力も抜けるだろうなあ、と納得しつつも、あのものすごい醒めっぷりを思い出して思わず笑ってしまう私だった。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年11月11日 (金)

ダイエットの憂鬱

私はフェレットを2匹飼っている。
どちらももうすぐ2歳になる雄なのだが、病院の隅っこで食っちゃ寝の毎日を過ごしている。
飼い始めたころは2匹ともスリムだったのだが、最近・・・。


「先生、大変大変!」
看護士さんが私を呼びに来た。
行ってみると、フェレットたちが運動場に放されて、楽しそうに遊んでいる。
どうしたの、と覗いてみると、
「あちゃ〜・・・。」

二匹のうち弟分の方が、遊び道具のトンネルに頭だけ突っ込んでもがいている。

「あれ、前は通り抜けできてたよね?」

そう、くぐって遊ぶおもちゃなのに、頭しか入らなくなってしまったのだ。
かろうじて肩まではなんとか入りそうなのだが、脇からお腹にかけての脂肪がひっかかり、それ以上は進めなくなっているのだ。
フェレットは、「おかしい、通れたはず!」と必死でもがいている。

確かに最近丸くなったし、抱くと重いなと思っていたのだが、まさかここまでとは思わなかった。
まずい。
非常にまずい。

「今日からダラダラ食いは禁止します。ご飯は正しい量を一日に回数を決めて与えます!」
私は宣言した。
こうして、フェレットたちのダイエット生活が始まった。


どうしてそんなにまずいのかと、不思議に思われるだろうか。

なぜなら私は日々、太めの患者さんとその飼い主さんに、「痩せましょう、ダラダラ食べてはいけません!」とお説教をしているのである。
こんな事がもしバレたら!
獣医師が飼い主なのに、なぜこんなにおデブさんなのかと言われたら!
いつも毅然とした、クールな口調で栄養指導をしているのに、バレてしまったら非常に恥ずかしいではないか。

ご飯をくれくれと能天気に騒ぐフェレットたちと格闘しながら、ダイエットに励む飼い主さんの苦労を改めて思い知った。
計量カップでフードを量りながら、今度からはもう少し優しく栄養指導をしようかな、と溜め息をつく私だった。

| | コメント (6) | トラックバック (1)

2005年10月24日 (月)

デコイチ君 〜後編〜

「こんにちは〜」

ある日、いつものように爪を切りにデコイチ君がやってきた。
今日はお父さんと男の子が付き添いだ。
いつも通り準備をし、デコイチ君に診察室に入ってもらった。
看護士さんは他の仕事で忙しく、手伝ってもらえなさそうだった。
「いよいよになったらお願いね」
とだけ伝えて、不本意ながら(?)ひとまず私だけでやってみる事にした。


「さて、今日も絶好調かしらね?」
と、診察台の上にデコイチ君を出してもらうと、なんだかいつもと雰囲気が違う。
すでに何回かの爪切りで、デコイチ君は病院を“嫌な所”と記憶しており、いつもなら診察室に入った時点で怒り始めるのだ。


しかし今日のデコイチ君は違う。
緊張した面持ちだが、暴れる事なくじっとしている。


「今日は大人しいですね、どこか具合が悪いんですか?」
お父さんに聞いてみると、家ではいつも通り暴れん坊で元気だとの事。


私はいつも使うエリザベスカラーや猫保定袋を手に、ちょっと考えた。

「では、始めましょうか。」
デコイチ君をまず袋に入れた。ゆっくり、ゆっくり・・・。いい子だね。
唸るだけ。
思う所があり、エリザベスカラーとタオルは巻かないことにして、後ろ足を一本引き出す。いい子、いい子。
唸るだけ。
おりこうだ、おりこうだ、と呪文のように小声で話しかけながら、パチンと一本爪を切ってみる。
唸るだけ。


信じられない。
私は嬉しくなって、思わずデコイチ君の頭をなでながら誉めた。
デコイチ君はちょっと嫌な顔をしながらも、じっとしている。
普段なら頭をなでようものなら、手は穴だらけになるはずだ。

前足のときだけエリザベスカラーを着けたものの、順調に爪を切る事ができた。
お父さんもしきりに「不思議だ」と繰り返し、男の子もまるで魔法を見るような顔で大人しくしていた。

受付仕事をしながら、いつ絶叫が聞こえてくるかとヒヤヒヤしていた看護士さんも、「え、もう終わったんですか?」と驚くぐらい、とても静かな爪切りだった。


デコイチ君の異変はその日限りではなかった。
次の爪切りにはお母さんと男の子でやってきた。
お母さんは、お父さんから聞いた話が信じられなかったようだった。
しかしその日も、デコイチ君はうなり声はあげるものの暴れる事もなく、お母さんもようやくお父さんの話が真実だったと納得した。


私は本当に嬉しくなり、思わずデコイチ君を袋から出して膝に抱き、猫用のご褒美ペーストを与えた。
お母さんは、「えっ!先生気をつけて!」と慌てていたが、デコイチ君は大人しく膝に座り、ペーストを私の手から舐めたのであった。


爪を切るのは簡単だ。
どんなに暴れる子でも、押さえつけるなり鎮静剤を投与するなりすれば必ず切る事ができる。
けれども・・・。

デコイチ君は、どうして爪を切らせたのか。
このことをきちんと考えることは、日々動物と向き合う私にとってすごく重要な事だ。
理屈ではない、何かもっと大切な事があるとデコイチ君は教えてくれたような気がしてならない。


次にデコイチ君がやってくるのはいつだろうか。
とても楽しみにしている自分がいて、すこし嬉しい気分になった。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年10月19日 (水)

デコイチ君 ~前編~ 

前回に引き続き、猫の話。


海辺の街の動物病院の患者さんの中で、一番のやんちゃ坊主、黒猫のデコイチ君は、2~3週間に一度、爪を切りにやってくる。


「こんにちは~」とデコイチ君一家がやってくると、受付にいる看護士さんはそれっとばかりに準備を開始する。
必要なもの、それは・・・
爪きり、深爪用止血剤、エリザベスカラー、猫専用の保定袋に、人間用のバンドエイド!!

それらを準備しながら、「先生!デコちゃんです♪」と、私を見てにやりと笑う。


そう、デコイチ君の爪切りは、普通の猫の爪きりのようにはいかない。
集中力と忍耐力と瞬発力、それから何があってもひるまない勇気が必要なのである。


私が初めてデコイチ君の爪を切った日・・・・。

フギャア~ッ!!

それまでは低くうなる程度でおとなしかったのだが、いざ爪を切りはじめるとものすごい形相で怒り出した。

それを見て、付き添いで来ていた自称デコイチ君のお兄ちゃんという、小学校低学年の男の子まで興奮してしまい、大声で「デコ!デコ!暴れてるよ~!すごいなあ!」と囃したてる始末。


もはやデコイチ君と男の子の絶叫合戦で、事態は最悪の状況になり、デコイチ君にいたっては診察台の上に乗っていてもらうことすら不可能な状態になった。


致し方なく、猫専用の、頑丈な布地で作られた保定袋にデコイチ君を入れ、さらに袋ごとバスタオルでくるみ、肢を一本ずつ外に引き出すようにして、ようやく爪を切ることができた。
デコイチ君も頭からすっぽり包まれているので、とりあえずうなるだけである。


が、もうすぐ最後の肢の爪きりが終わろうかという段になって、デコイチ君の興奮は再び最高潮に達し、この世のものとは思えない絶叫と共に、バリバリバリッ!と袋を裂いて脱出してきた。


その後の惨状はご想像にお任せするが、私も、デコイチ君を袋ごと押さえていた看護士さんも、さらには飼主さんも腕は傷だらけになった。
しかし飼主さん家族は、こんなに激しい展開にも満足してくださったらしく、そのあとも数回定期的に爪を切りにやってきた。
そのたびに診察室にはデコイチ君の絶叫と、男の子のはやし立てる声が響き渡っていた。


ところがある日・・・・


 ~後編へ続く~


| | コメント (6) | トラックバック (0)

«愛があれば○○なんて